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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)1031号 判決

原告 山本信三

右訴訟代理人弁護士 鮫島武次

被告 株式会社山六商店

右代表者代表取締役 山口六郎

右訴訟代理人弁護士 清木尚芳

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告が別紙記載の商標につき「紙及他類に属せざるその製品」(旧五〇類)を指定商品として、昭和三〇年二月一二日出願し、同年七月四日公告、同年一二月二六日登録をうけたこと、被告が同人製造の日記帳の表紙および裏帳紙の各上部に「Five Year Diary」と英語で横書きの表示をして、これを販売していることはいずれも当事者間に争いがない。

二、被告は、本件商標を日記帳に使用するかぎり特別顕著性がなく無効である旨主張するが、一般に登録商標の無効を主張するには商標法所定の審判手続によることを要し、侵害訴訟においてその無効を主張することはできないと解すべきであって、本件商標につき無効の確定審決があった旨の主張立証のない本件においては、本件商標権を有効なものと認めるのほかはない。

三、そこで、まず、請求原因(1)の、被告が同人製造の商品に表示している「Five Year Diary」なる表示が原告の本件商標権を侵害するものであるかどうかにつき考察する。

(1)  被告は日記帳が印刷物であって本件商標の指定商品に含まれない旨主張するが、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三号証添付の商標公報(商標出願公告昭和二二年第八三八号、同二五年第二六〇七号、同三〇年第八八七〇号、同三二年第一五九三一号)を参酌して旧法の分類を仔細に検討すると本件商標の指定商品である「紙及他類に属せざる其の製品」中には、日記帳の明記がないけれどもこれを含むものと認めるを相当とする。

右認定に反する証拠はない。

(2)  被告は、被告の使用する右表示は五ヶ年間使用できる日記帳の内容用途を示す普通名称であって、被告は右表示を普通に用いる方法で使用しているから、原告の本件登録商標権の効力が及ばない旨抗弁するので以下に判断する。

≪証拠省略≫によれば、次の各事実が認められる。

1、現在次のような手帳が製造販売され、外国へ輸出されている。

(一)、「Five Year Diary」あるいは「FIVE YEAR DIARY」と表紙の表に英語で表示し、その内容が被告主張のように五ヶ年間使用できるように構成されている日記帳、これは原告の経営する山本信株式会社、被告会社、嘉長紙製品株式会社(昭和三七年八月三一日設立代表取締役長田嘉市郎)がそれぞれ製造販売している。

(二)、「One Year Diary」と表紙の表に英語で表示し、その内容が一ヶ年使用できるように構成されている日記帳、これは被告会社、前記嘉長紙製品株式会社が製造販売している。

(三)、「SIX YEAR DIARY」と表紙の表に英語で表示し、その内容が六ヶ年間使用できるように構成されている日記帳、これは宮本兼三郎が製造販売している。

(四)、前記(一)の「Five Year Diary」等は現在主にアメリカに輸出され、その他イギリス、オーストラリヤ、アフリカ等に輸出されている。

2、長田喜手帳製造所(経営者長田喜一郎)は、昭和五年頃から同一四年まで、表紙の表に「Five Year Diary」(書体は不詳)と英語で表示し、その内容が五ヶ年間使用できるように構成した日記帳を製造し、これを神戸市所在のストロング商会、アメリカマーチャンダイスカンパニー外二社を通じてアメリカに輸出していた。同製造所は戦後、同二三年から二四年にかけて、表紙の表に「FIVE YEAR DIARY」と英語で表示し、五ヶ年間使用できるように構成した鍵付の日記帳を南里貿易株式会社を通じてアメリカに一二〇〇ダース輸出した(鍵が不備であったたため半分位返品された)。更に、同製造所は、同二四、五年頃エンパイヤ商事を通じてその内容が前同様に構成され表紙の表に「FIVE YEAR DIARY」と英語で表示した日記帳を輸出したが、その後はこの日記帳の製造を停止した。

3、原告は、同八年一〇月頃から同一四年まで、表紙の表に「Five Year Diary」と英語で表示し、その内容が前同様に構成されている日記帳を、ドッドウェル株式会社、日光商会、佐治種治郎商会等を通じてアメリカに輸出していた。原告は最初ニューヨーク市のクレスト商会の「ファイブ イヤー ダイヤリー」を表紙の表に表示した五ヶ年間使用できる日記帳を見本として、右の日記帳を製造した。そして、原告は、戦後同二四年から山本信株式会社設立までは個人として、同会社設立後は同会社の業務として、「Five Yeae Diary」と表紙の表に英語で表示し、その内容が前同様に構成された日記帳を南里貿易株式会社を通じてアメリカに輸出している。

4、長田紙製品工業所(経営者長田孫一、長田嘉市郎)は、同三〇年頃表紙の表に「One Year Djary」と英語で表示し、その内容を一年間使用できるように構成した日記帳及び「Years Long Diary」と表紙に英語で表示しその内容を五ヶ年間使用できるように構成した日記帳を製造販売した。

5、アメリカにおいて「FIVE YEAR DIARY」は長年に亘り五ヶ年間使用できる日記帳を指称する普通名称として使用されてきた。

6、現在「Five Year Diary」と表紙の表に英語で表示した日記帳は、その全部が五ヶ年間使用できるものであって、一ヶ年や三ヶ年間だけしか使用できない構成にしたものはない。

以上の諸事実ならびに戦前から戦後本件商標の登録まで「Five Year Diary」との表示を五ヶ年間使用できる日記帳のみを指称する言葉として使用して来た旨の原告本人の自供を綜合すれば、被告が使用している「Five Year Diary」なる言葉は、国内において一般に五ヶ年間使用できる日記帳を英語で指称する日記帳の普通名称であると認めるのが相当である。

証人吉田信三、同奥野喜一郎は、ファイブイヤーという日記帳は原告の製品であることは業界に知れわたっている旨証言し、原告本人も同趣旨の供述をしているが、これらは原告が「Five Year Diary」即ち五年間使用できる日記帳の製造業者として業界に知れわたっている意味に理解できるので、必ずしも前記認定の妨げとなるものでなく、他に右認定に反する証拠はない。

(3)、ところで前掲検乙第一号証(被告の製造販売にかかる日記帳)によると、被告は、同会社製造の日記帳の表紙の表の中央上方寄りに「Five Year」と、その下段に「Diary」といずれも、イタリック体で表示していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

前記認定の諸事実によれば、被告は「Fi-ve Year Diary」を五ヶ年間使用できる日記帳の普通名称として普通に用いる方法で表示しているというべきである。したがって、商標法二六条一項二号により、本件商標権は被告の製造する日記帳に対する右表示には及ばないといわなければならない。

四、次に原告の請求原因の主張について判断するに、仮に「Five Year Diary」と日記帳の表紙に表示したものが原告の商品を表すものとして本邦内において広く認識せられていたとしても、前述のように、「Five Year Diary」との表示は五年間使用できる日記帳の普通名称であり、被告はこれを日記帳に普通に用いる方法で使用しているのであるから、不正競争防止法第二条第一項第一号により、原告は被告の右使用を妨げることはできないといわなければならない。

してみれば原告の右主張も理由がない。

五、以上の理由により、原告の本訴請求はいずれも失当であるのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大江健次郎 裁判官 西田辰樹 佐藤貞二)

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